2014年11月

自分の経験からも、特に根拠があるわけではありませんが、メール返信の速さは「信頼関係を築く」という意味で、もの凄く大事な気がします。

カリフォルニア大学アーバイン校のJudy Olson教授によれば、Facebookメッセージなども含め、声や体の動きがわからない中、テキストだけで行われるコミュニケーションではどれだけ速く返信するかが、その人への「信頼度」を表すそうです。



2011年までグーグルCEOを務めたエリック・シュミット氏はメールの返信について次のように述べています。

「すぐ返信する。世の中にはメールの返信が速く信頼できる人とそうでない人がいる。前者になるように努力しよう。私たちが知っている中でもとびきり優秀で、しかもとびきり忙しい人は、たいていメール返信が速い。」

「普通の人が返信しないのはもっと悪い意味が込められている。”たいていは忙しすぎて、いつ返信できるか、そもそも返信できるかわからない。返事がほしければ、そのまま待っていてくれ。ついでにあんたのことは嫌いだ” という意味だ。」

忙しければ忙しい人ほどメールの返信が速い。

さらにシュミット氏によれば、誰にでも速くメール返信することでコミュニケーションの好循環が生まれ、フラットで強い企業文化が作られるそうです。

「返信は短くていい。私がよく使うのは ”了解” だ。迅速な返信能力に自信があるのなら、返信しない場合はどういう意味か、周囲にはっきりと伝えておくこともできる。私たちの場合、それは通常”了解したから、進めてくれ”の意味だ。」

12210693875_499110fe1b_z↑コミュニケーションの好循環が本当の企業文化を作る。(Pic by Flickr)

Study Hackの記事によれば、素早い返信で「常につながっている状態」が作られることで、企業の限界生産性(marginal productivity)が上がるそうです。

そしてメール返信だけではなく、SNS上で顧客との関係を築く際も、返信の速さは重要視され、サウスウエスト航空の返信の速さが顧客との信頼につながっていると指摘している記事もあります。

スクリーンショット 2014-10-14 22.56.26↑顧客の信頼度は意外に簡単なことから生まれる(サウスウエスト航空のツイッターのキャプチャー)

ただしすべてのコミュニケーションが平等にカウントされるわけではありません。動画のコミュニケーションは音声よりも信頼度を高め、音声はテキストよりも信頼度が高いのも事実です。

例えばカリフォルニア州の州知事を務めたシュワルツェネッガー氏は、Twitterのフォロワーが良いアイデアを出してくれたお礼を動画で行い、フォロワーとの信頼度を高めました。



ビジネスに限らず、日常の生活においてもコミュニケーションが上手くいくか、いかないかが成功の命運を分けると言っても過言ではありません。

昔、まだ質で勝負できないのであれば、「圧倒的なスピード」で勝負するという話を聞いたことがありますが、声や体の動きが見えない中でコミュニケーションを取ることが多い現在では、メールを圧倒的に速く返信するだけでも大きな付加価値になります。

そう考えれば、エリック・シュミットが指摘する通り、忙しくて仕事ができる人ほど、メールの返信が速いというのは十分納得ができることなのかもしれませんね。

http://lrandcom.com/response_asap

戦後日本は焼け野原から這い上がるため、ただ今日、明日の食べ物を確保するために働き、高度経済成長期に入ると「欧米に追いつけ追い越せ」をキーワードに成果報酬など導入しなくても、給料も売上げも面白いように上がったため、日本人全員がやる気満々でした。

しかし、1990年代にバブルが弾け、なんとか社員のモチベーションを上げなければとアメとムチのような成果報酬主義を導入する企業が増えましたが、アメリカで100年近く採用されてきた制度をいきなり日本に移植しても上手くいくはずもなく、多くの人が「働く意義」を見つけ出せなかったり、月曜の出社が恐怖となる「サザエさん病」にかかったりと早くも様々な障害が出てきています。 depression_obsessive_compulsive1↑成果報酬主義で長期的に成功している企業は存在しない (Pic by salon)

アル•ゴア副大統領のスピーチライターを務め、ベストセラー作家でもあるダニエル•ピンク氏によれば人間のモチベーションは三段階に分かれるそうです。

モチベーション1.0

生存のための本能的なモチベーション。やりたいか、やりたくないかではなく、やらなければ生きていけないから、頑張るという世界。

モチベーション2.0

アメとムチによる成果報酬によるモチベーション。人間を馬と考え、ニンジンをぶら下げてやる気を出させる、もしくは罰を与え、それを避けたいという気持ちから無理矢理やる気を出させる。

モチベーション3.0

何かを達成したいとか、社会の役に立ちたいといった個人の中から自然と出てくるモチベーションのことを指す。

掛け金のないゲームであっても「やりたいからやる」のである。職場に成果主義が導入されなくてもいなくても、自分の中に達成したいものがあるから頑張るという世界。 「お金だけでは社員のモチベーションは上げられない」

例えばアメとムチのモチベーション2.0を使って、子供に数学の勉強をさせたとしましょう。問題集を1ページ終えるごとにお小遣いを与えれば、その子はほぼ確実に、短期間、数学に夢中になりますが、長期的に考えれば、間違えなく数学そのものへの興味を失います。

それは仕事でも同じことで、デザイナーにもっと良い成果を期待して、製品がヒットすれば報酬を与えると約束すれば、当面の間、デザイナーは仕事に没頭しますが、長期的には仕事への興味を失うことになるでしょう。

さらにピンク氏によると、仕事に金銭的なモチベーションを与えると、視野がどんどん狭くなって、クリエイティブな発想ができなくなるそうです。

timthumb↑金銭的なモチベーションと創造性は反比例する (Pic by westsublimo)

Facebookのマーク•ザッカーバーグさんは高校生の時に、「Synapse Media Play」というサービスを作り、マイクロソフトから約1億円で買い取りたいというオファーを受けましたが、世の中の人に自由に使ってもらいたいという想いから、このオファーを断りました。

さらにグーグルの創業者、ラリー•ペイジさんが一番腹を立てることは、あるアイデアがどれだけ儲けられるかを言い立てることだそうです。

image (1)↑ザッカーバーグは高校生の時にモチベーション3.0に達していた (Pic by businessinsider)

田原総一郎さんはLineやリブセンス、そしてライフネット生命など急成長している日本企業を取材し、次のように述べています。

「ROE(株主資本利益率)よりもソーシャルインパクトを重視していることも、ポスト•ホリエモン世代の特徴だ。彼らは自分が儲けることより、新しい事業で社会を変えることに喜びを見出している。」

data↑リブセンス:「利益は重要ですが、利益がすべてではない。」(Pic by bloomberg)

モチベーション3.0は利益を最大化することは否定しませんが、「目的の最大化」を利益以上に重要視するため、営業会議よりもビジョン会議の方がはるかに重要になってきます。

ベンチャーキャピタリストでハーバード大学の卒業生でもあるボブ•コンプトンさんは20代と関わった時の経験を次のように話しています。

「あるとき若手社員に商品開発のスピードを上げたらストックオプションとボーナスをやると提案したら、”僕はお金を入れたら動く自動販売機じゃないんですよ、ボブ”って言われたんだ。お金を入れたら動くじゃないって?それじゃどうすれば動くんだ?今でも分からない。ハーバードで学んだことなんて全然役に立たないよ。」


働く意義を見出せなかったり、月曜の出社が恐怖となる「サザエさん病」にかかる人たちが増える中で、「仕事を何だと思ってる」、「全く近頃の若者は」と批判するのは簡単ですが、イノベーションを起こしたり、利益を最大化させる定義は時代とともに変わっており、どれだけ医学は発展しても、次の時代を担うのは、今の20代、そして30代の人たちです。



アメとムチによる成果報酬型のインセンティブは生産性が重視された20世紀の遺産となりつつあります。

本当にイノベーションを起こしたいのであれば、自分たちの価値観を押し付けるのではなく、モチベーション3.0の定義に習ったビジョンの共有に時間を使い、社員が自ら動く環境を作って上げることが大切なのではないでしょうか。

あなたの部下もお金を入れたら動く自動販売機ではないのですから。

「数字は嘘をつかない」と不況になればなるほど、経営やタスク管理を数字化し、目標を短期化させることで、企業にとって本当に大事な長期的な目標からどんどん遠ざかっているという元大手コンサルタントの証言、「申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。」、かなり興味深いです。

大手コンサル会社に仕事を依頼すれば、「効率化」や「スキルの標準化」、そして「パフォーマンスの最適化」などを根拠なく押し進め、社員は機械同様、数字で管理されて、職場からどんどん人間味が奪われていきます。


この数十年、企業のリーダーたちは、「どうしたら我が社はビジネスを通じて人びとの暮らしをもっとよくするために貢献できるか」という重要な課題に取り組もうとせず、あまり意味のない問題ばかりにとらわれてきました。

•どうしたら競争優位性を確保できるか?

•どうしたら(会社的にも個人的にも)利益を増やせるか?

•どうしたら人材活用の効率を最適化できるか?


例えば、「やせなければ」と思った人がいて、1. 「半年で10キロやせる」という目標と、2.「体力をつけ、心身の健康状態を改善する」という2つの目標を比べてみると分かりやすいです。

「半年で10キロやせる」という目標は、目標達成のために食事制限ができたとしても、すぐにリバウンドで体重が戻ってしまう可能があるし、運動して筋肉がつくせいでかえって体重が増えるおそれもあります。(筋肉よりも脂肪のほうが重いため)

さらに5ヶ月経っても目標に近づかない場合は、極端に食べる量を減らしてしまうかもしれません。

それに引き換え、「体力をつけ、心身の健康状態を改善する」という目標は長期のライフスタイルの変化を表します。

この目標が素晴らしいのは、期限もなくいつまでも達成できないところにあります。これはキレイごとではなく、努力は常に持続していかなければならず、基本的に終わりなどないのかもしれません。

girl-eating-apple↑本当に大事なのは長期的なライフスタイルの変化 (Pic by keeperofthehome)

これは企業目標も全く同じことで、「革命的な家電を作りたい」と思っている企業が、経営コンサルタントに相談すると、「では具体的な数字に表してみましょう」という話になり、あっさりと「年末までに革命的な商品をX個つくる」という目標にすり替わってしまいます。

つまり重要なのは「期限」と「数量」であり、「革命な家電を作りたい」という一番大切な目標は二の次になってしまうわけです。


もう経営コンサルタントが推奨するマネージメントモデルやメソットは必要ありませんし、すでにあるものさえ、しっかり機能しているかは疑問です。

Evernoteの創業者、Phil Libinさんは100年後もEvernoteが繁栄し続けているようにと、100年以上存続している企業を徹底的に調べました。

世界には100年以上の歴史を持つ企業が約3000社ありますが、驚くことにその約80%が日本企業で(多くはスモールビジネス)、日本型の経営とシリコンバレーのスタートアップメンタリティーを融合させることが長期的に繁栄する企業には必要だと述べています。



数十年前まで日本企業は当たり前のように長期的なビジョンを持ち、社員を数字などで管理せず、社内には「人間味」が溢れていました。

しかし、不況なり経済が衰退し始めると、欧米の経営スタイルにシフトし始め、職場からどんどん「人間味」が失われていったように思います。

もちろん欧米式の経営スタイルで成功した企業も多いのは事実かもしれませんが、「数字は嘘をつかない」と人や長期的ビジョンをすべて数字で管理するのはかなり危険なのではないでしょうか。

数字は平気で嘘をつきます。もうこれ以上数字を目標にして職場から人間味を奪うのはやめましょう。数字はリカバリーできても、一度失われた人間味を取り戻すことはそんな簡単なことではないのですから。

最近、渋谷を歩いているとレッドブルのクリエイティブな広告を目にしますが、CEOのディートリッヒ・マテシッツ氏は、「マーケティングがすべてだ。」と明言し、次のように述べています。

「今後は、主要製品と関連のない企業の買収と製品ラインの拡大に努めます。私たちはマーケティングのプロです。潜在能力があるにもかかわず、これまで日の目を見ることのなかったブランドを眠りから覚ましてやりたいのです。私たちの強みは問題解決能力です。すでに確立しているものの管理ではありません。」


実際、マテシッツさんが1987年にレッドブルを創業した時の資料には、「レッドブルのための市場は存在しない。我々がこれから創造するのだ。」と書かれており、何十年という時間を費やしてそれを実現させました。

多国籍企業ユニリーバのエリート社員だったマテシッツさんは、誰もが羨むような高額な給料を受けとっていましたが、最初はブランド構築やヨーロッパ人好みのテイストを作るのに苦労し、創業して数年で個人資産の5000万円は早くも底をつく寸前だったそうです。


レッドブルは売上の30%をブランド構築に費やすと決めており、現在のマーケティング予算は600億円を超えています。(コカコーラは売上げの9%)

実際、レッドブルの会社登記簿には業務内容として、「レッドブルブランドの活用」としか記されていないため、商品の機能や利点については一切語らず、イメージ、価値、イデオロギーを心に訴えかけ続けることを真の目的としています。

「こんな小さい缶で、のどの渇きをいやせると思うな。翼を手に入れるためにレッドブルを飲め。」

「あなたが選ばれた人間ならこの車に乗れ。」


このようなアプローチは「精神的付加価値」と呼ばれ、かつて人々が教会で感じていたような精神的充足感の代行となっており、レッドブルは消費主義という名の新しい宗教における”聖水”の働きをしているのかもしれません。

さらに、飛び抜けたブランドは表上のイメージだけで作られているわけではなく、グループ全体が見えない感情で繋がっています。

創業間もない頃、製造契約を結ぶことになったラウフ社に対し、契約書なんていらないと握手一つで製造を取り決めたり、海外から仕入れれば、遥かに安く手に入る砂糖も品質にこだわり、すべてヨーロッパの農家から仕入れています。

「私たちはお互いに絶対的な忠誠を誓っています。」(レッドブルCEO)



「バカの壁」の著者、養老孟司さんも昔は本を書く時、出版社との契約は口約束で済んだのに、今ではもの凄い量の契約書を交わさなければならなくなったと述べていました。

「契約書なんて交わさなくても、なにか問題が起きて、どうしても解決できないときにだけ、弁護士が出てくるくらいでいいのです。日本人がお互いに信頼していた時代には不信から生じるコストが低かった。そのことは案外、見過ごされやすいのだけれども、日本の成功の要因だったのではないかな、という気がします。」



信頼のレッドブル・ブランドはもう世界中のセレブの間でも御用達です。

1980年代、セレブがレッドブルを持って歩いている姿を写真に収めるためには、それなりの対価を払う必要がありましたが、現在では数多くの俳優やポップスターがレッドブルを片手に写真を撮り、SNS上でアップロードしているため、ブランドは自然と世界中に広がっていくのではないでしょうか。

ブリトニー・スピアーズにいたっては、ペプシ・コーラの広告契約に関する記者会見の席でレッドブルをちびちび飲んでいる姿がメディアに取り上げられていました。


実際、これまで140を超える競合企業が、似たような製品や名称で闘いを挑んできましたが、レッドブルは今も全世界のエナジードリンク市場の70%を占めています。

恐らくこれからの時代は、レッドブルやヴァージン・グループのように徹底的にマーケティングにこだわる企業か、グーグルやパタゴニアのように徹底的にプロダクトにこだわる企業しか生き残れないのかもしれません。(アップルのようにプロダクトもマーケティングも完璧な企業も稀にありますが。)

マーケティングと広告の意味を理解していない企業は俳優一人に億単位のお金を支払いますが、マーケティングのプロであるレッドブルはマイナーな人たちを活用することで、自分たちの価値観を世の中に伝えていきます。


最近はレッドブルのクリエイティブな広告がよく出ているので渋谷の街が色づいています。

汚い短期決戦の広告を街にバラまくのではなく、長期的な市場を創りだそうとする広告が街に増えれば、草木を植えるように街が色づくのではないでしょうか。

「今すぐ電話」や「○○で検索」ではなく、目に見えない価値観を伝える時代になりました。

すぐに行動できなくても、孫さんのように時代の大きな局面を理解しておくのはものすごく大事だと思います。

孫さんが自信を持って断言するように、日本がモノづくりで競争力を取り戻すことはほぼなく、アジアを中心とした第二次IT革命(モバイル)に滑り込みこむことが、日本が復活する最後のチャンスになるかもしれません。

モバイル革命↑モバイル革命は日本に残された最後のチャンス

日本が現在活気を失っている理由は、産業革命の末期にさしかかっており、成熟産業は人口が多く賃金が安い国にどんどん流れていってしまいます。孫さんは次のようの述べています。

「自動車のエンジンの速度はここ10年で1.1倍しか速くなっていませんが、インターネットの通信速度は750倍、CPUの速度は500倍になっています。アジアを制するものが世界を制する。モバイルを制するものがインターネットを制する。もう1回だけ、最後のスタートラインの仕切り直しです。」

孫正義↑これが最後のチャンス 

歴史を振り返ってみると、産業革命はイギリスから始まり、アメリカに移って、それから戦後の日本に受け継がれていきました。第一次インターネット革命はアメリカから始まり、現在アジアにシフトしつつあります。

日本人がどんなに終電まで働こうが、筋肉の量でも人口の数でも他の国には敵いません。

「日本の現在の教育は暗記7割で、思考が3割です。僕はこのバランスを逆にすべきだと考えています。」(孫正義)

生産性_中国↑生産性だけで考えれば、人口が多い国の方が絶対に有利 

これは企業内でも同じことが言えるのではないでしょうか。現在、モノを安く早く作る、効率性重視の仕事が7割、創造性重視の仕事が3割のバランスを逆にすることで、一時的に売上は下がるのかもしれませんが、中期、長期的に考えれば、必ず新しい市場開拓に繋がります。

以前、別の記事で書きましたが、忙しく世界を駆けまわるのも起業家の仕事の一つですが、美味しいコーヒーを飲みながらゆっくり頭を働かせるのも立派な起業家の仕事なのではないでしょうか。

twitterH↑コーヒーを飲みながら、常に頭を働かせるTwitterの創業者たち

スティーブ・ジョブズは人間にしかできないクリエイティブなことにもっと時間を費やせるようにと、コンピューター開発を始めたと聞いたことがありますが、良くも悪くも人間には「生産性」よりも「創造性」が求められるようになりました。

日本に残された時間はそれほど長くはありません。

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