日本国 近代資本主義の父「渋沢栄一」1840-1931(91歳)
 
第一国立銀行、日本銀行のほか、東京銀行集会所、大阪銀行集会所、東京海上保険、日本郵船、日本鉄道、東京地下鉄道、東京石川島造船所、鐘淵紡績、札幌麦酒、東京瓦斯、大阪瓦斯、東京電燈、帝国ホテル、東洋紡績、日本製紙、王子製紙、太平洋セメント、清水建設、澁澤倉庫など、日本が世界の一流国の仲間入りをするために必要な企業の設立を支援。

大正5年1916年69歳引退その後は下記啓蒙活動を行い生涯日本国に尽くした。

金儲けを卑下することはないが、一方でモラルが大切だというのが彼の信念だ。“利は義に反する”というのが、幕府の御用学問とされた朱子学の教えである。それがゆえに江戸時代は“商いは下賤な業”とされたわけだが、彼は孔子が「民を富まして後に教えん」と説いていることに注目し、民衆を富ますことが君子の任務であり、「利は義に反しない」と主張した。

日本経済の急速な発展の陰で、精神面が等閑に付され始めていることに危機感を抱き始めていたからだ。道義的に正しい道を歩まねば一時的に富を築けたとしても永続性はない。〝論語と算盤〟という言葉は一見かけ離れたものを示すようだが、2つで1つなのだという彼の主張は〝道徳経済合一説〟と呼ばれ、自らその伝道者となっていく。

明治10年1877年
“択善会”という組織を立ち上げている。後の東京銀行集会所(現在の全国銀行協会)である。択善会の名前は論語述而第七に由来する。〈三人行えば必ずわが師あり〉という有名な言葉に続く、〈その善なるものを択んでこれに従い、その不善なるものはこれを改むる〉という一節から採った。いかにも論語通の渋沢らしいネーミングだ。

昭和6年(1931年)91歳死去
天寿を全うしてこの世を去った。享年91。死の3日前、おおぜい見舞客が来ていると聞いて、次のような言葉を残したという。
「長いあいだお世話になりました。私は100歳までも生きて働きたいと思っておりましたが、こんどというこんどは、もう起ち上がれそうもありません。これは病気が悪いので、私が悪いのではありません。死んだ後も私は皆さまのご事業やご健康をお守りするつもりでおりますので、どうか今後とも他人行儀にはしてくださらないようお願い申します」 (渋沢雅英著『太平洋にかける橋渋沢栄一の生涯』)


渋沢栄一1840-1931(91歳)生い立ちと業績
 
天保11年(1840年)埼玉生まれ。父・市郎右衛門は学問を好み、勤勉にして厳格。起業家精神に富み、養蚕と藍玉製造を通じて財をなし、名字帯刀を許される豪農となった。彼は息子の栄一にも、早いうちから藍の葉や藍玉の仕入れを手伝わせている。
最近の研究では、江戸幕府に“士農工商”という身分制度が敷かれていたというのは否定されつつあるようだが、右から左へ売買して利サ゛ヤを稼ぐ商行為は、農工業のような“ものづくり”よりも低く見られる傾向があったのは確かだ。その思想的背景には、商行為を〝下賤な業〟とする幕府の御用学問であった朱子学の影響があった。だが渋沢は、商売は決して〝下賤な業〟などではなく、学問同様奥深く、幅広い教養と豊かな人間力なくしては大成できないことを、身をもって体験していく。
母のエイは慈愛に満ちた心優しい女性であった。公衆浴場にハンセン病の患者が入場してきた時、他の入浴客が嫌がって逃げ出す中、彼女だけはいつに変わらぬ態度で接し、一緒に入浴していた、というような逸話も残されている。

いつの世も教育は家庭に始まる。渋沢栄一の人生と業績が、つまるところ父親の勤勉さと起業家精神、母親の高い倫理観と慈愛の心に集約されるのは、子女教育の観点からも深い示唆に富んでいる。白洲次郎の父母も同じく。

渋沢の青春は幕末の動乱期と重なる。文久元年(1861年)、21歳の時に江戸遊学を許され、儒学を当代随一の学者・海保漁村に学び、剣術を“千葉の小天狗”として知られた北辰一刀流・千葉栄次郎に学んだ。明治・大正期の指導的大実業家。一橋家に仕え、慶応3年(1867年)パリ万国博覧会(栄一27歳)に出席する徳川昭武に随行し、ヨーロッパの産業、制度を2年間見聞。明治2年(1869年)新政府に出仕し、明治4年(1871年)大蔵大丞となるが明治6年(1873年)退官して実業界に入る。第一国立銀行の総監役、頭取(栄一29歳)となったほか、王子製紙、東京瓦斯など多くの近代的企業の創立と発展に尽力した。昭和6年(1931年)没。



北康利
1960年名古屋市生まれ。東京大学法学部卒業後、富士銀行入行。資産証券化の専門家として富士証券投資戦略部長、みずほ証券財務開発部長等を歴任。2008年6月末にみずほ証券退職。本格的に作家活動に入る。『白洲次郎 占領を背負った男』で山本七平賞を受賞。

北康利氏の著書『新装版 名銀行家列伝―社会を支えた“公器”の系譜』=きんざい、2017年4月25日刊=の中から一部を抜粋・編集